主な種の紹介(分布・生活)
日本には10種以上のヨシノボリ類がいることが確認されています。しかし1980年代までは,カワヨシノボリ以外の種はRhinogobius bruneusとして1種にまとめられていました。いくつかの型が存在することは知られていたのですが,同種の中の変異(色違い)だと考えられていたのです。現在では遺学的解析や生態の詳しい調査などから,それらが別々の種に分類できることが明らかになりました。さらに新種の発見も続いています。
・本州〜九州産の6種の見分け方(作成予定)
・本州〜九州産の6種の分布模式図
各種の紹介
本州から九州にかけて分布する各種の特徴を下にまとめてみました。
[シマヨシノボリRhinogobius sp. CB]
- 特徴:顔にミミズ状の縞模様があります。体の側面に横班があるので横班型と呼ばれていました。雌の腹は繁殖期には特に青くなります。
- 分布:琉球列島〜本州全域
- 生活:河川の下流域の流れのゆるい所に多く生息し,大きな川にも小さな川にもいます。卵からふ化した仔魚はすぐに海に降りて浮遊(プランクトン)生活をし,1.3cmほど(四国南西部では)に成長してから川に戻ってきます。海の代わりに池や湖に流下し一生を淡水で過ごす集団もいます。
[クロヨシノボリ Rhinogobius sp. DA]
- 特徴:体色はシマヨシノボリに比べて一般に暗いため黒色型と呼ばれていましたが,特に黒いという印象ではありません。色が薄い場合には体の側面(後半)に不連続の細い縦線が黒く出ます。雌の腹は繁殖期には黄橙色になります。
- 分布:琉球列島〜本州(新潟・千葉以西)の暖流があたる地域
- 生活:外海に面した(暖かい海流に接する地域の)小河川に多く生息します。特に海からすぐに山になるような川では本種だけが生息していることが多くあります。少し大きい川では主に淵の水が貯まった所に住んでいます。仔稚魚期の生活はシマヨシノボリに類似しています。
[オオヨシノボリ Rhinogobius sp. LD]
- 特徴:体色は一般に暗く,他のヨシノボリより大きくなるので黒色大型と呼ばれていました。胸びれの付け根近くに黒いはっきりした菱形の斑紋があります(体色が薄い場合には特に目立ちます)。
- 分布:九州〜本州(秋田・福島以南)・奄美大島?
- 生活:大きな河川の中流域を中心に生息します。瀬の水流が速い所を好みます。大きいものでは12cm以上に成長します。仔稚魚期の生活はシマヨシノボリに似ています。
[ルリヨシノボリ Rhinogobius sp. CO]
- 特徴:体色・体の大きさはオオヨシノボリに似ていますが,ほほや体側にルリ(コバルト)色の小斑が点在するためルリ型と呼ばれていました。胸びれの付け根に目立つ斑紋はありません。
- 分布:九州〜北海道南西部(山陰・東北太平洋側の一部は除く)
- 生活:外海に面した比較的小さい河川の上・中流域に多く生息します。瀬の水流が速い所を好みます。大きいものでは11cm以上に成長します。仔稚魚期の生活はシマヨシノボリに似ています。
[トウヨシノボリ Rhinogobius sp. OR]
- 特徴:他のヨシノボリ類に比べて,あまり体色や斑紋などに定まった特徴はありません。その特徴は地方によって大きく異なります。琵琶湖の集団などは尾びれが橙(だいだい)色になるため橙色型と呼ばれていましたが,そうならない地方もあります。分類的にも不明点が多いヨシノボリです。
- 分布:九州〜北海道
- 生活:琵琶湖・宍道湖などの湖沼とそこに流入する河川を中心に生息します。また,広い平野部(関東平野など)を流れる河川の下流や,海から離れた内陸部の池沼・ため池などにも多く住んでいます。基本的には流れが緩い(ない)所を好むようです。河川でふ化した仔魚は湖沼(一部は海)で浮遊生活を行い,成長してから川に戻ってきます。
[カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus]
- 特徴:他のヨシノボリ類に比べて,体色や斑紋は地味で目立った特徴がありません。胸びれの条(すじ)の数が少ないのが大きな区別点です。卵が特に大きいので大卵型,あるいは一生を河川で過ごすので河川型と呼ばれていました。
- 分布:九州北部〜本州(富山・静岡以西)
- 生活:比較的大きな河川の上・中流域に生息し,淵の水が貯まった所を好みます。湖沼には生息していません。卵からふ化した時にはすでに親とほぼ同じ形をしており,浮遊生活はせずに親と同様な生活を始めることができます。海には降りずに一生を河川で過ごします。
[その他]
- 琵琶湖では従来のトウヨシノボリの他に,別種のヨシノボリがいることがわかり,現在ではビワヨシノボリという仮称がついています。河川にも多いトウヨシノボリと異なり,湖内の少し深いところを中心に分布する小型のヨシノボリのようです。
- 琉球列島にはこの他にも4種のヨシノボリ類(シマ・クロを含めると6種)が生息しています。それぞれ興味深い生活スタイルをもっており,大きめの卵を産み一生を河川で過ごす種(キバラ・アオバラ,共に中卵型と呼ばれていた)も2種知られています。
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沖縄島産 アオバラヨシノボリ
(♂) |
??型(♀)
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- 小笠原諸島では、オガサワラヨシノボリという新種も発見されています。
- また,同じヨシノボリ属に属するハゼとしては,ゴクラクハゼという種が琉球列島〜本州に分布して
います。ヨシノボリ類より頭が大きめで腹びれが縦に少し長いことで区別できます。別属に分けようという意見もあるようです。
注)ヨシノボリ各種の図は原色日本淡水魚類図鑑,林(1984)等を参考にしました。