修論論文

要旨(改訂版) 

 両側回遊性のハゼであるヨシノボリ類では、孵化仔魚の流下が下流域では日没直後に集中的におきている.これに対して上流域では、昼間も多頻度の仔魚の流下が観察されている.これを説明する仮説の一つに、上流で日没後に孵化した仔魚が、障害物や本流脇の止水域などにひっかかることにより流下が遅れ、昼夜を通して仔魚の流下がみられるというものがある.本研究では、河川の各地点で流下仔魚を採集し、脊索長と耳石の成長状態から孵化後の日数を推定することにより、上流域で孵化した仔魚の流下状況をより明らかにしようと試みた.

1.仔魚の孵化後の仔魚および耳石の成長を調べるため、クロヨシノボリの仔魚を孵化させ飼育した.一定期間ごとに仔魚を採集しサイズを比較すると、孵化後の日数・脊索長・耳石径の間に強い相関がみられた.また、81%の耳石で孵化時に相当する部位に孵化時の生理的ストレスによると思われる顕著な輪(チェック)が観察された.

2.蜷川(高知県大方町)の上流域で採集したクロヨシノボリ仔魚は脊索長と耳石径の分散が大きく、飼育実験のデータを基に計算すると孵化前日〜孵化後6日目の範囲に相当していた.また、より成長が進んだ仔魚の耳石で、飼育実験の仔魚とほぼ同じ位置にチエックと思われる顕著な輪がみられた.同様の結果は、河口近くまで上流型の河川形態が続く小河川であるオモ谷(高知県佐賀町)においても得られた.

3.蜷川の上流域で採集したオオヨシノボリの仔魚では、クロヨシノボリほど脊索長・耳石径の分散が大きくなかった.しかし、卵黄をほとんど吸収しきった仔魚が86%を占めており、これらの仔魚の多くが流下途中で飢餓状態になる可能性が示された.

4.蜷川の下流域で採集された仔魚の97%は、シマヨシノボリとゴクラクハゼだった.これらの仔魚はまだ卵黄か多く残っているものが多かった.主に上流域に分布しているヨシノボリ類は、下流域ではクロヨシノボリを除きほとんど採集できなかった.

 以上の結果から、上流域の仔魚が孵化後0〜6日ほどかけて分散しながら流下しており、それにより一日中流下が観察されるということが明らかになった.また、下流域でみられる流下の日周バターンは主に下流域で孵化した仔魚のもので、上流からの流下仔魚の影響はほとんどないこと、上流で孵化した仔魚の多くが流下していく過程で消失している可能性があることの2点が示唆された.

Starvation of drifting goby larvae due to retention of free embryos in upstream reaches

Moriyama, A., Y. Yanagisawa, N. Mizuno & K. Omori
Env. Biol. Fish. 52: 321-329, 1998.

Key words : amphidromy, diel drift pattern, otolith, Rhinogobius, Gobiidae

Synopsis

The embryonic drift pattern of amphidromous Rhinogobius species varies along the river courses: it peaks soon after sunset in gentle gradients in the plains, whereas it occurs throughout the day in steep courses. An examination of the otolith size and notochord length indicated that the age of embryos drifting in steep courses varied widely, ranging from 0- to 7-day-old. Many of them had exhausted their yolk. We therefore attributed the all-day drift in steep courses to stagnation of embryos in slack or whirling water. In contrast, embryos drifting in gentle gradients were mostly soon after hatching and included few embryos from steep courses. We estimated that in normal or low river flow most embryos from the upper stream die before they descend to the sea.

投稿論文の別刷りはまだ余部がありますので,ご希望の方はご連絡下さい。


卒業論文のpage

研究紹介のpage

ヨシノボリ Home page