ヨシノボリ類の飼育 2.繁殖



カワヨシノボリの繁殖

 カワヨシノボリの卵(ふ化稚魚)は大きいため,繁殖させやすい。他のヨシノボリ類ではふ化仔魚が小さいため,仔魚の餌となるシオミズツボワムシ等が簡単に手に入る場合を除いて,お勧めできない。

 繁殖を目的として飼育する場合,産卵をさせる雄が慣れるまではなるべく雄1尾ずつ別々に飼うことが望ましい。雌の場合も少数尾ずつ飼っておいたほうがよい。自然状態では沈み石の下に穴を掘るため,産卵をさせる基質は大きめのものを用い,下の部分が少し砂中に埋まるぐらいにしておく。基質としては平たい石や幅12cm平方・厚さ1cmほどのタイル(瓦でも可)を用いる。雄は気に入ったら穴を掘り始めるが,うまくいかないときはあらかじめ基質の下に穴を掘っておいてもよい。魚を軽く刺激した際に魚が逃げ込むくらいがちょうどいい。雄があまり気乗りしない場合は,少し小さめの雄を一緒に入れてみるのも一つの方法。雄がライバル意識(?)をもち,繁殖に気持ちが向かいだす可能性がある。(→図

 雄が巣に出入りするようになり雌の腹も大きくなったら,産卵は可能。雄のいる水槽の一部をプラスチックの板などで仕切り,雌1〜2尾をそこに移す(雌用の隠れ場所も作る)。水質の変化が雌に悪影響を与えないよう,適当な大きさのケースに元の水槽の水を半分,新しい水槽の水を半分入れて,その中で短時間慣らしてから入れるとよい。水槽に移して数時間後,雌が落ちついたら仕切板を取り出し一緒にしてみる。雄が雌を追い払ったりしていないのならばよい傾向である。産卵している時は,今まで水槽の端のほうにいたはずの雌がいなくなっている(巣の中にいる)のでだいたいわかる。1・2日で雌が巣から追い出されてきたら雌をそっと取り出す。産卵の確認は,魚を捕るネットの柄などをタイルの角に引っかけて軽く上げて隙間からそっと覗くとよい。あまり刺激すると雄が卵を食べてしまう。養育中の雄には特に餌をやらなくてよい。

 卵保護中は水槽を刺激しないように注意し,水槽内をのぞく回数も減らす。雄が巣の外に出ていることが時々あるが,頻繁になりすぎない限りはそれほど気にする必要はない。あせって巣の中をみてしまうと世話を止めてしまうことがある。2週間近くたってもふ化がおきない場合は,ネットの柄などで石をそっと上げてのぞいてみるとよい。

 ふ化は水温にもよるが10日から2週間ほどでおこる(カワヨシノボリ以外のヨシノボリ類の場合はもう少し早い)。ふ化は夜間に始まるので,朝になったら「稚魚」が底にいないかどうかを確認する。カワヨシノボリの稚魚はふ化時は体長8mm前後で,すぐに底生生活を始めるので砂利の上をよく探すこと。放っておくと親が食べたりするので,すぐに別の水槽に移す。ふ化予定日が近づいたら稚魚が吸い込まれないような仔魚飼育用のフィルターやエアポンプに切り替えるのがよい。

 稚魚の飼育は成魚の飼育に準じるが,フィルターは稚魚が吸い込まれないように仔魚飼育用の水流が弱いものを用いる。水質の悪化につながるため,砂利は最初のうちはないほうがよい。稚魚の餌として孵化の前からブラインシュリンプを用意する。初めのうちはあまり餌を食べないので,少しずつ餌の量を増やすようにする。稚魚が大きくなるにしたがって水槽も狭くなるので,適時,水槽を移し変える。水質はなるべく急に変えないこと。普段の水質の管理等も忘れずに。1.5cmほどに成長したらアカムシ等を餌として与えてよい。

他のヨシノボリ類の繁殖(一般の人では困難だが参考までに)

 仔魚用の餌や海水が簡単に入手できる場合には,他のヨシノボリ類も同様にして繁殖させることができる。トウヨシノボリが比較的産卵をさせやすい。ふ化直後から仔魚が着底するまでの期間の餌としては,シオミズツボワムシ等を用いる。ワムシの餌となるクロレラと合わせて(仔魚自体の餌にもなるし,水の透明度が落ちるので仔魚が落ち着く)1日何回か与えるとよい。飼育用の水は海水でなくてもよいが,ワムシ・クロレラの生存には塩分が必要なので2/3海水(淡水:海水=1:2)程度が望ましいと思われる。淡水から海水に変える場合は急激に変えずに,段階的に少しづつ海水を加えていくこと。稚魚になって着底したらカワヨシノボリと同様に育てられる。(→図

 特に注意すべき点は,死んだ餌等によって水質がかなり悪化しやすいことである。1日2回ほど水を1/4程度変える。水換えの際に仔魚を一緒に棄ててしまわないように気をつけること。サイホンの原理を利用し,塩化ビニル製の管の先にガーゼを着けたものを用い,少しづつ水を吸い出すとよい。仔魚は特にストレスに敏感で死にやすいため,なるべく水流を弱くし,かつ水槽の周囲を紙で覆うなどして薄暗くして飼育する必要がある。経験的にいって,仔魚の飼育環境を整えることだけでなく,餌の安定供給(餌を自前で飼育する場合を含めて)がかなり大変な仕事である。


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