1999年度水産海洋学会 発表要旨

9月 東大海洋研

種苗放流と資源管理との関係

森山彰久・松宮義晴・勝川俊雄(東大海洋研)

1.はじめに
 種苗放流の効果は,天然加入への種苗の添加によりその年級からの漁獲量を増やす一代回収型と,産卵資源量を増やす再生産期待型の2つに大別し評価できる。再生産期待型の種苗放流は,資源管理(漁獲規制)と同様に資源の産卵資源量を増やす方策として位置付けされる。資源管理や種苗放流を両立させた包括的な資源の管理をおこなう上で,資源の構成個体および資源全体がもつ将来の再生産能力を見積もることは重要である。繁殖価および繁殖ポテンシャルは年齢が異なる個体や資源の再生産上の価値を相対的に比較するための概念である。これらの概念を用いた今までの知見や研究を整理するとともに,漁獲量の規制による効果と種苗放流による効果を併合させた包括的な資源管理について検討した。

2.繁殖価(Reproductive Value,RV)
 繁殖価はある齢の個体がこれからの先の生涯に産む期待産卵数として定義され,個体の再生産能力の指標として使用される。性比が年齢によらず一定で,産卵が1度に起こると考えると,t 歳魚の繁殖価RVt は下式のように表現できる。

t 歳魚の繁殖価: 

ここでEi i 歳時の産卵数,Si t 歳からi 歳までの生残率,tmax は最高年齢である。天然魚と放流魚の繁殖価を計算することにより,t 歳の天然魚1尾を漁獲せずに獲り残すことの効果と種苗を1尾放流することの効果を相対的に比較検討することができる(森山・松宮,1997)。

3.繁殖ポテンシャル(Reproductive Potential,RP)
 資源を構成する各個体の繁殖価を合計したものが,繁殖ポテンシャルRPである(勝川・松宮,1997;Katsukawa & Matsumiya,1998など)。i 歳魚の個体数をNi ,加入年齢をtr とすると,繁殖ポテンシャルRPは以下の式で定義される。

繁殖ポテンシャル: 

RPは未成魚の将来の産卵能力を評価できる点が大きな特徴であり,放流種苗の将来の繁殖能力を数値化することができる。漁獲規制や種苗放流による産卵資源増大の効果は,規制の有無と放流の多少に基づいて計算されるRPの値や差により表すことができる。

4.放流魚繁殖ポテンシャル指数
 放流魚繁殖ポテンシャル指数は,放流魚の繁殖ポテンシャルを資源全体の繁殖ポテンシャルで割った値であり,資源全体の再生産量に対する種苗放流の寄与の相対的な大きさを表す(1997年度日本水産学会秋季大会で発表)。本指数の計算には過去の放流履歴などから現存資源中に含まれる放流魚の年齢別尾数のデータが必要である。過去の放流履歴が明らかでなく放流魚の分離が困難な場合や,現存資源中の放流魚を考慮せずにこれからの種苗放流の効果を主に着目したい時には,簡易的な指数の計算で代替することが考えられる。太平洋中区のマダイ資源を対象にした事例を紹介する。

5.種苗放流効果を考慮した資源管理
 秋田県沿岸のハタハタ資源では資源量の50%を許容漁獲量(TAC)とする資源管理と同時に,種苗放流が実施されている。一定の資源量という基準のかわりに一定の繁殖ポテンシャルRPを獲り残す管理を遂行すれば,漁獲量の規制によるRPの確保と放流によるRPの添加を併合させた包括的な管理が可能である。ハタハタ資源を対象に,種苗放流量の多少に対応した許容漁獲量を決定する方法を検討した。

参考
水産学会発表要旨 96年度秋  97年度秋  98年度春  99年度秋

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